発足時の呼びかけ

研究会「職場の人権」をはじめよう!

私たちの国ではいま、職場での従業員の処遇が、その労働者個人の人権抑圧 をもたらしもする状況があらわになっています。労働問題は、最大の生活問題で あるばかりか、ふつうの労働者にとっての深刻な人権問題にもなりつつあるとい えましょう。
厳しい不況のなか、解雇が、長年そこで懸命に働き続けてきたパートタイマ ーにはもとより、正社員にもはばかりなく通告されるようになりました。労働者 を「自発的な」退職に追い込むための、仕事を与えない、その人の経験や体力か らみてとても無理な仕事をさせる、同僚に挨拶させない、ときには罵倒し暴行を 加えるなどのいじめさえ稀なことではありません。子供をもつ、または既婚の女 性に「解雇がいやならパートになれ」と迫る、機敏には働けない中高年者や頑健 でない人を名指しで無能力なごくつぶしときめつけるといったことも日常茶飯事 です。拒否すればいじめや解雇で報われるようなセクハラも頻発しています。ま た、体力もやる気も充分の従業員が、職場のサバイバル競争に生き残ろうとして ノルマ達成などに奔走し、力つきて過労死、過労自殺にみずからを追い込んでゆ く、そんな事例も後を絶ちません。
これまで少なくとも雇用保障や一定の昇給はあった正社員の組織労働者でさ えこのような状況ですから、もともと、官民を問わず正規従業員に比べてその労 働条件が差別的なまでに劣悪であったパートタイマー、派遣社員、契約労働者な ど未組織の非正社員はいまいっそう、人間としての尊厳を踏みにじられるような 一方的解雇、退職の強要、有無を言わせない労働条件の切り下げを体験していま す。とくに不安定雇用の女性たちは、法律の保障する出産休暇や育児休業の取得 さえ現実にはままならず、子育てをしながら働き続けるという当然の市民権を奪 われていることもしばしばです。
「非自発的失業者」も、以前よりもはるかに不利な雇用口でさえ見つけられ ずにさまよう長期失業者も、激増しています。総じて人権の危機と生活不安、ス トレスと心身の疲れが職場に満ちている、ニッポン・一九九九年です。

「労働問題が人権問題になった」ことについては、いくつかの要因が複合的 に作用しています。とりあえず、企業に人減らしを促す不況の深刻さ、終身雇用 体制の動揺、従業員の「生活態度」さえも評価対象とする日本的能力主義の強化 、その集約的な結果としての、労働条件が上司の査定によって個人別にきめられ てしまうような「個人処遇化」の進展、強者の論理「市場主義」信仰にもとづく 雇い方・働かせ方の法的規制緩和、個人の受難を掬(すく)うような労働組合機 能の衰退などをあげることができましょう。
しかし背景はともあれ、私たちはいまや、差別や人権無視が生じうる対象を 被差別部落の人々、障害者、高齢者、外国人、女性などに限定することはできま せん。これまでの伝統的な人権擁護の営みを支えてきた熱い「たましい」に学び ながらも視野を広げ、労働市場や労務管理の新しい展開のなかで、ふつうの労働 者、なかんずく七八%にもおよぶ未組織労働者の日々の労働問題がまさに人権問 題として浮上している現時点の状況を直視したいと思います。

およそこのような問題意識から、私たちは、職業や所属団体を異にするさま ざまな人々の集う研究会【職場の人権】を立ち上げます。そこでは、まずは現代 日本の労働者の職場生活における受難の体験が語られ、その体験が人権擁護の視 点から討論され、状況改善のための労使関係的、法的、行政的、または個人的な 方途が探られるでしょう。研究会のプロセスでは、たとえば、労働者個人の人権 を扱いうるような新しい労働組合の機能と組織はどのように構想できるか、「労 政と福祉」に限定された従来の労働行政の視野は狭すぎるのではないか、「人権 」の概念自体も、フェニミズムの台頭と性別役割分業の見直しとともにいまもっ と豊富化される必要にせまられているのではないかーーこのような理論的なテー マも議論されるはずです。
月例を予定している研究会での報告と討論は、正確な資料にもなりうるよう に会報に収録するつもりです。この研究会の営みを通して、私たちは今日の労働 問題は人権問題としても把握されるべきことについて、社会的な合意を獲得したいと考えます。

ひろく現代日本の労働のありかたに関心を寄せる研究者、法律家、行政担当 者、労働運動の実践者、そしてもちろんふつうのサラリーマンや市民のみなさん ! 私たちの労働現場をもう少しは民主主義と人権が息づく界隈に変えるため、 研究会【職場の人権】への参加をよびかけます。研究会会費としては高いほうか と存じますが、この研究と会報発行の社会運動的性格に鑑みて、ご了解ください ますように。遠方で例会参加が難しい場合はいっそう申し訳ないのですが、会費 を会報購読料とお考えくださって、サポートしてくださいますようお願い申し上 げます。

一九九九年七月
熊沢誠(よびかけ人代表・甲南大学)
伊田広行(大阪経済大学)、伊藤みどり(女性ユニオン東京)、井上二郎(弁 護士)、上田育子(コミュニティユニオン関西ネットワーク)、上原康夫(弁護 士)、遠藤公嗣(明治大学)、大野町子(弁護士)、大脇雅子(参議院議員)、 岡保夫(大阪文学学校)、要宏輝(全国金属機械)、金子利夫(弁護士)、鎌田 慧(ルポライター)、川人博(弁護士)、木下武男(鹿児島経済大学)、久場嬉 子(東京学芸大学)、越堂静子(ワーキングウィメンズ・ネットワーク)、酒井 和子(コミュニティユニオン全国ネットワーク)、設楽清嗣(東京管理者ユニオ ン)、下山房雄(九州大学)、鈴木良始(北海道大学)、高井晃(コミュニティ ユニオン全国ネットワーク)、竹下政行(弁護士)、竹中恵美子(龍谷大学)、 田中一吉(泉州労連)、津村明子(ジャーナリスト)、中川智子(衆議院議員) 、中島通子(弁護士)、中野麻美(弁護士)、西浦宏(大阪府会議員)、西谷敏 (大阪市立大学)、野崎光枝(均等法ネットワーク)、馬場徳夫(全港湾)、林 誠子(パート研究会関西)、古田睦美(長野大学)、増田登(自治労泉大津市職 )、三山雅子(同志社大学)、宮原光一(大阪府職員)、宮里邦雄(弁護士)、 宮地光子(弁護士)、森ます美(昭和女子大学)、脇田滋(龍谷大学)

※所属は発足当時